2013年ぷちトラvol.17 唐津くんち特集 唐津くんち、うわさの真相。

この特集は、2012年の唐津くんちの取材をもとに構成しました。 


 確かに、これは迫力です。11月2日の宵曳山の時は特に、暗闇に浮かび上がるその血走った目ににらまれると、子どもでなくとも思わず後ずさり。これがうわさの11番曳山・米屋町の「酒呑童子と源頼光の兜」です。

 

 だいたい題材からして、怖いのです。その昔、盗賊征伐の勅命を受けた源頼光は丹波の山に分け入り、酒に酔わせた酒呑童子の首をはねます。だまし討ちにされ、無念にも宙に舞った酒呑童子の首は「おのれ!」とばかり頼光の兜に噛みつく。まさにその場面を再現したもので、この怨念に満ちた形相をいかに迫力あるものにするか、製作者たちはかなり苦心したようです。当初は目玉に長崎のビードロを使用し、その球の中には綿花を詰め、充血した血管も赤く染めた綿花で表現しています。時にガラスの取り換えや修理も行われますが、目のつくりの微妙な違いで表情が大きく変わるため、米屋町の人たちは神経をすり減らします。

 

 そんな11番曳山が、幼い子どもたちを泣かせてきたといううわさは、どうやら本当のようです。特に昔の宵曳山は明るいスポットライトではなく、薄暗いろうそくのあかりで照らしていたため、迫力は今以上だったそうで、「そりゃあ、えずかった(怖かった)ばい!」と年配の男性。だから、昔のお母さんたちは子どもが11番曳山を見て泣かなくなったら、「うちの子も一人前になった」と目を細めていたという話も聞きました。

 

 しかし今はくんちの時だけでなく、展示場に行けばいつでも曳山には会えるし、映像でも流れるし、写真やグッズも氾濫。地元の子どもたちは一年中曳山を目にしているので、そのぶん恐怖感が薄れてはきているようですが…。

 

 それにしても怖くてたまらない曳山は、裏返せば、やっぱり見たくてたまらない曳山なのだと思います。子どもの頃はよく発音できずに、酒呑童子を「『スッテンドウジ』て呼びよったもんね」という前出の男性。その懐かしそうな笑顔には、11番曳山に対する愛着の念があふれていました。