ぷちトラvol.11唐津くんち特集「ぷちトラ流 唐津くんちの曳山鑑賞法」 2010年11月発行


5番曳山 鯛 魚屋町 弘化2年(1845)
5番曳山 鯛 魚屋町 弘化2年(1845)
11番曳山 酒呑童子と源頼光の兜 米屋町 明治2年(1869)
11番曳山 酒呑童子と源頼光の兜 米屋町 明治2年(1869)

文字通り、昔は魚屋が軒をつらねたという魚屋町が奉納したのは、勿論この魚。あでやかな朱塗りの五番曳山「鯛」は、14台中一番の人気ものだ。シンプルでわかりやすい造形で、クルクルした丸い目玉が愛嬌があって、特に子供たちには絶大なる人気を誇る。 かたや伝説をもとにつくられた十一番曳山は、兜にかみついた童子の血走った眼でにらみつけられて、毎年泣く子続出? 怖いもの見たさでいえば、こちらも「鯛」に負けず劣らずの人気もの、といえる。 物語はこうだ。丹波の山奥に住む夜盗軍団の目に余る所業に、時の一条天皇がお怒りになり、勇者である源頼光に討伐を命じた。頼光らは山伏姿で山へ分け入り、夜盗軍団の首領である酒呑童子を毒酒で泥酔させてその首を取ったのだが、討たれた童子の首がおのれ!とばかり宙を舞い、頼光の兜に噛みついた、と。 製作者らは童子の顔をどう表現するかで苦心したそうだ。完成前の曳山を通りに置いて、自分たちはこっそりその中に入り、道行く人々の勝手な批評に耳を傾けてから最後の仕上げに入ったという。 黒々ふさふさとした眉毛と髭はいかにも悪党らしい。大きくひんむいた眼球は怒りで血走っている。死んでも離さんぞ!という豪快な噛みつきっぷりも見事。製作者たちの苦心の甲斐あって、鬼気迫る形相でほかの曳山を圧倒する。 愛くるしい「鯛」と、そんなこんなでかなり怖い「酒呑童子と源頼光の兜」。笑ったり泣いたり、と子供たちを魅了してやまないこのふたつの曳山が通る時は、ぜひそこのところもあわせて楽しんでいただきたい。

 

〈写真協力〉 社団法人唐津観光協会

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